航空機用被削材の加工に対する高精度クーラントのメリット

航空機用部品の加工におけるクーラントの役割は、若干進化しました。加工工場は長年にわたり、加工領域、特に加工にクーラントを必要とする被削材の上をガイドチューブで埋め尽くすようにしてクーラントを使用してきました。しかし現在では、加工領域へ正確に高精度のクーラントを適用することによって、新たなメリットを得ることができます。この技術への広範なアクセスは、新しいツーリングコンセプトと同様に、多くのCNC機械における高いクーラント供給能力によって可能になりました。
違いを生み出す
クーラントが効果的に適用され、違いを生み出すには、十分な流量で、正しく刃先に向けた、高精度の噴射が必要になります。クーラントが流れている、あるいは加工領域をクーラントで満たすだけでは十分ではありません。また高圧クーラントを適切に適用することで、以下の項目についてはっきりとした違いが生じます:
- 切りくず生成
- 熱の分散
- 刃先における被削材の溶着
- 表面完全性
- 工具摩耗
これらの基本的な加工要素は、以下のより高い競争力を達成するための改善目的として製造にも影響します:
- 生産性
- 工具寿命
- 切りくず処理と切りくず排出
- 加工部品品質

高精度クーラントを適切に適用すれば、生産量は最大になり、加工安定性が向上し、工具性能とワーク品質が改善されます。低圧でも良好な影響を得ることができますが、圧力が高いほどより加工が困難な被削材でも優れた加工結果を達成することができます。
高精度クーラントの適用は加工一般に、特にステンレス鋼と低炭素鋼の加工に違いを生み出すことができます。しかし、加工に劇的な違いが生じるのは、耐熱合金およびチタン合金のようなより加工が難しい被削材を加工する場合です。それは、多くの最近の開発が高圧クーラントをより興味深く、より容易に利用できるものにした結果です。
Jetbreakが加工コンセプトを開拓
1980年代と90年代に、サンドビック・コロマントは、Jetbreak、高圧クーラントシステムの最初のバージョンを開発しました。研究に基づいて、超高圧 (100–1000 bar) までのクーラントの正確に刃先へ向けての噴射は、加工特性と切りくず処理の理由から加工が難しい被削材を加工するために使用される切削工具の一部になりました。クーラントジェットの噴射方向は、切りくずと刃先の間に流体ウェッジを形成するように調整されています。接触長さは、加工領域における温度を下げることで短縮されました。もう一つの興味深い結果は、切りくずのカールがどのように影響を受けることがあるか、どのように切りくずの形成を改善するか、場合によっては、どのように切りくず処理を導くかでした。
多くの特殊工具への適用のために、Jetbreakは、被削性の好ましくないおよび/または面倒な切りくずの被削材を加工するためのソリューションになりました。クーラント圧の分配とクーラントノズルサイズの影響に関してたくさんのことが分かりました。ジェット条件を変えることにより、可変切りくずフォーマーが達成されました。また、希望する方向に糸状の切りくずをガイドし、切りくずの長さを改善することも可能になりました。取付けは、特に石油産業、航空宇宙産業およびボールベアリング産業における問題を解決するために、限られた規模でなされました。しかしながらJetbreakは、特殊工具ホルダによる専用の取付けが必要でした。そして主に立型旋盤において使用されました。
標準仕様の高圧クーラント
多くの最新のCNC械は、標準仕様または十分な容積のタンクと十分な能力のポンプ付きオプションとして70~100 barの圧力でのクーラント供給機能を備えています。この供給能力は、一般に用いられているマシニングセンタ、ターニングセンタ、立旋盤および複合加工機において加工性能と結果に顕著な違いが生じる高圧クーラントを組込むのに十分です。標準装備は、ジェットが適用されるポイントへクーラントを容易にガイドすることで十分です。
高圧クーラント加工の本質的なベースはモジュラー式工具です。機械停止を最小限にするために工具のクイックチェンジを確実にする一方で、機械から刃先へのクーラントコネクターとチャンネルを効果的に固定します。モジュラークイックチェンジツーリングシステムCoromant Capto®は、Jetbreak開発のベースでした。今日では新しい規格高精度クーラントツーリング用のベースです。このシステムは、内部クーラント付きで設計されており、モジュラー式プラットフォームとして理想的です。また、高精度でクーラントを供給する手段としても好適です。これは確立されたISO規格で、固定工具および回転工具を備えた多くのCNC機械におけるオプションです。

クーラントを正確に直接刃先へ供給する高精度のすくい面へのクーラントが、切りくず処理と加工安定性を改善します。逃げ面へのクーラントは工具寿命を延長し生産性を向上させます、特にチップに大量の熱が発生する加工に効果的です。
高精度クーラント対応のフライスカッターはクーラントスルータイプで、工具タイプ、および意図する用途応じて、位置決めし、噴射方向を設定できるノズルを装備しています。チャンネルは、工作機械または約70 barの圧力でクーラントを供給するのための追加のポンプ装置に接続されています。この圧力での供給は今日広く利用可能です。この圧力は超高圧ではありませんが、圧力範囲は間違いなく性能と結果の大幅な改善に十分なものです。このコンセプトは、多くの加工工場の既存リソースをうまく利用するもので、また、将来に向けての投資ともなります。
旋削用高精度クーラント
高精度クーラント対応の旋削工具は、薄層平行流の精密なクーラントジェットを噴射する機能を備えています。ジェットは、チップと切りくずの間に油圧ウェッジを生じさせて、切りくず形成とフローに影響し、加工領域の温度を低下させます。刃先の近くに取り付けられたノズルを使用して、高速ジェットを正確に形成し、チップすくい面から切りくずを除去し、切りくずを冷却して短い長さに切断して、排出を手助けします。
仕上げ加工における利点は、鋼、ステンレス鋼、アルミ合金、さらにチタンおよび耐熱合金を含む被削材において、10 barまで下げても確認されました。良好な切りくず処理によってもたらされる高い安全性の他にも、高精度クーラントは、工具寿命の大幅な改善およびより高い切削速度への対応も可能にすることがあります。高精度クーラントを適用することにより、工具寿命が50%延長することもよくあることです。
切削速度は他の要素以上に、温度、したがって工具摩耗にも影響します。チタンの加工において、加工特性範囲の限界を超えて切削速度を上げることは工具寿命を劇的に短くします。しかし、同様のスケールで送りを上げると、工具寿命の低減が小さくなるのが一般的です。これが、工具寿命への影響を低くして、切りくず排出量を改善するための代替案になることも稀ではありません。しかしながら、高送りは高い切削抵抗および切りくず処理に対する影響もあり、これらの機械においては必ずしも一つのオプションとは限りません。

耐熱合金 (HRSA) 製タービンディスクの旋削。高精度クーラントは、耐熱合金 (ISO S) の加工において極めて重要な役割を果たすことができます。
したがって、高精度クーラントの効果は、通常の温度上昇および工具寿命の低減のない、より高い切削速度による性能アップの可能性を実現することができます。高送りにおいて明らかな冷却効果があり、高い切削抵抗が発生することはありません。耐熱合金 (ISO S) に分類される被削材の場合、同じ切込み長さを維持しつつ、切削速度の20%アップを達成できます。
高精度クーラントは、内径旋削加工においても、良好な切りくず生成の実現およびチタンのような加工が難しい被削材の剪断特性の改善を支援するために重要な役割を果たすことができます。このように、このコンセプトはボーリング加工に対して、より高い安全性およびより長い工具寿命をもたらします。ランディングギア部品におけるようにボーリングバイトを使用して比較的大きく深い穴を加工する場合、工具の背面および前端でのモジュラー式ツーリングが有利なものとなります。クランプされているバイト上の小さなカッティングヘッドを交換できるので、素早く簡単で正確な交換が可能で、1回のセットアップでさまざまな切削向けに大きな柔軟性を付加します。CoroTurn SLは、防振型ボーリングバイトと径の10倍の深さの大きな穴をボーリング加工するためのヘッドのセレーション付きロックを組合わせていて、高精度クーラント装備も備えています。
ワークの表面完全性のバラツキは、加工中に生成される温度と切削抵抗の影響を受けます。クーラントは、確実に温度を制御する役割を果たします。従って、高精度クーラントはより信頼性の高い加工面結果をもたらすことが示されました。工具のノズルは、チップの仕上げ面に接する部分に直接向けられます。ノズルが調整不要のため、多くの変数が削除されています。従ってより安定した一貫性のある加工プロセスが実現されます。
正しく確立された加工の最適化
加工領域に向けて流体ウェッジを形成する能力により、特に中荒~仕上げ旋削加工として分類される加工においては、切りくず厚さはより制御可能なものとなり、流体ウェッジは荒加工の場合よりも容易に適用することができます。
高圧クーラント加工の適用は、不適切なチップ、不安定性、不適切な切削条件などのような他の加工要素による欠点を償う手段と見なされるべきではありません 。加工が適切に確立されている場合、高精度クーラントはオプティマイザーです。このコンセプトは、旋削加工とフライス加工において、より短いサイクルタイム、ワーク品質の一貫性の改善、およびより高い加工安定性のための手段を提供します。

高精度クーラントによるねじ切り。
特に切りくず生成および難削材の影響が顕著な場合のさまざまな加工作業の最適化というニーズが、高精度クーラントを魅力的なオプションにします。新しい世代の立型旋盤と複合加工機の増加は、特に切りくず処理の観点から、高精度クーラントによる加工のメリットを明示するものとなりました。これらの機械は、難削材で航空機部品を作る加工工場で使用されることが増えているため、切りくずの堆積による障害が大きな問題となっています。